携帯小説1

僕は10年間ことみの事が好きだ。
ことみは学生の時から人気者で、周りに人が沢山いた。
同性にも人気があったし、成績も優秀だ。
勿論異性にも凄く人気がある。
僕がことみの事を好きな理由は、年末に溺愛していたペットが亡くなって泣いて電話してきた時だ。
強そうなことみの弱い面を見れたから。
守ってあげたいと思った。
いつも仕事と勉強ばかりしているからもっと自由にさせたい。
僕は自分に自信がないから10年間、友達と言うポジションのまま。
それでも良かったんだ。
あいつが現れる前までは。

私はことみ。
なんとなく物事をやっていたら何でも出来るだけ。
昔、愛想笑いしているねとか友達に言われた。
そうかも知れない。
私は誰に対しても素直になれない。

仕事終わりに本屋さんに寄って新刊を確認する。
私の好きな著者さんが新刊を出していないか。
本は裏切らない。

楽しい事も辛い事も無いって感じで生きている。
退屈と言われれば退屈だし、充実していると言われれば充実している。
刺激がある事より安定を求める傾向だと自分では認識している。
いつも通り可もなく不可もなく生きている。

今日は新刊出てないか。
そうだよね、毎日の様に本屋さんに来ているし、そんなに直ぐ新刊が出るわけでもない。
真っ直ぐお家に帰ろう。

と思ったら、街中で声をかけられた。
この人、誰?
「ここ何回か通っているの2週間ぐらい見かけていました!!この手紙にLINEのID書いているので、時間があったら俺にLINEして下さい!!」
街中で大声でそう言う男性。
ちょっと目立つじゃない。
でも、見た目がタイプだったから、顔が真っ赤になりながら手紙を受け取った。
私は愛想笑いしながら、その場を去った。
こんな事は慣れているはずなのに、いつもと心の動きが違う。
この感覚なんだろう。

お家に帰って直ぐに手紙を読んでみた。
LINEのIDだけ書いてあった。
私はまだ送るのを躊躇い、友達に電話した。
「もしもし?ことみだけど、今電話出来る?」
「ことみか?!どうした?!」
10年間友達のひとしだ。
直ぐに電話に出てくれた。
「何か街中で知らない男の人に連絡先渡されたんだけれど…」
「こんな世の中だから気をつけた方がいいよ。気軽に連絡先を教えるものでは無い」
そう言って、ひとしは断固拒否の様子だ。
でも、それは友達の意見。
丸々意見を鵜呑みするのは可能性が伸びなくなる。
「よく考える」
と言って電話を切った。

そのまま寝て仕事に行った。
今日は新人が取引先にコピー機で原稿を送るやり方がわからないと言うので教えていた。
そして休憩時間はiPhoneを触る。
ふと頭に浮かぶのは街中で声をかけてきた男性。
鋭い目線の優しい顔立ちをした男性。
仕事に集中出来なくなっている。
鞄から無意識に手紙を出していた。
LINEを送った。
スタンプだけ。
一瞬でLINEが返ってきた。
「ありがとうございます!!明日出会った場所で会いましょう!!」
なんて強引。
こっちの用事も聞かないで。
ちょっと笑いが出てきた。
こんなタイプ初めてだ。
いつも皆予定を念入りに決めるから。
嫌いじゃない。

次の日になり、出会った場所に行った。
時間は決めていないのに、手紙をくれた人がいた。
そっと近付くと、気付いてくれた。
「ええっと、俺りきとと言います!!世界で1番あなたの事が好きです!!結婚を前提に付き合いましょう!!」
と言われた。

りきとは私の名前を知らない程。
何も知らない状態で告白するなんて常識ないんじゃない?

黙っている私にりきとは
「俺はあなたを大切にします!!結婚資金を貯めて早く結婚しましょう!!」

やっぱり、ちょっと非常識。
でも、熱くてかっこいい。
私は
「まずはデートしなきゃでしょ」
と言って、デートの約束をしようとした。
そしたら10年間友達のひとしが現れた。
「あ、ことみじゃん。何してんの?」

照れくさそうに
「私、この人と付き合うかもしれないんだ」
とりきとを紹介した。

そうしたらひとしは
「僕は10年間もことみの事を好きだったんだぞ?!それなのに何処の馬の骨か分からない知らない奴と付き合うだ?!やめとけよ?!ハッキリ言う。ことみを理解出来るのは僕だ。ことみには理解者が恋人になるのが丁度良い。こんなスゥエット着てるような適当な奴にことみを任せられるか?!しかも今まで見た事も聞いた事も無い。もしかしてLINEの男か?!LINEから恋が発生なんてどうなんだよ!僕は10年間もことみを想ってきたのに。ことみの理解者は僕なんだ。僕にしとけよ。」
ひとしは珍しく感情を表わにした。
ひたいには汗が沢山。

そうしたらりきとが
「どうこう言っても、選ぶのはこの人なんで」
と言って、私の肩を抱いた。
一瞬ひとしは手をあげそうになったが抑える動作をした。

私はひとしの気持ちに気付いていた。
10年間想ってくれていて中々告白してこなかった人、急に現れて直ぐに告白してきた人。
今の私じゃ天秤にかけられない。
そう思った。



俺はりきと。
いつも物事を何でも失敗する。
突き進んだ道を走っているだけなのに周りに叱られる。
仲間は沢山いて、仲間優先にするのが自分の良い所で悪い所だ。
仕事も続かない。
トラブルを起こすからだ。
かといって給料は少ないが仕事はしている。
仲間からは人気者だ。
面白いんだってさ。
そんな日常にいつも泣きそうな顔をしながら歩いている女性を見つけた。
俺はLINEのIDだけ手紙に書く事にした。



続く。