ディーオ。


もう、私に太陽は昇らない。
一生、私に太陽が昇らないの。

故郷に捨てられた。
50万で別の国に売られたの。
私は捨てられた。
いらない存在になったみたい。

好きだったレノオがいたのに。
レノオがいつか迎えにきてくれるの。
そう言い聞かせてないと生きていられない。
本当にレノオが迎えにきてくれるわ。
レノオはあたしを迎えに来てくれるわ。

売られた先は私を最初は警戒していたわ。
私が泣いてばかりいるから。
最初は厳しく雑用をやらされた。
掃除と洗濯と料理と物を運ぶ仕事。
黙って従った。
そこの主人のディーオは同情する言葉をかけてくれる。
同情されると胸が痛む。
ディーオは意外にも私を「可愛いのにね…」って、たびたび言ってきてくれる。
周りは異国人ばかり。
知らない国の人達。
仲良くもしてきてくれるけれど、何か蚊帳の外。
ここにいても私の居場所はないの。

ディーオが花を持ってきてくれた。
花もいつか枯れていく。

ディーオが話し相手になってくれた。
上の空なのがばれているみたい。

ディーオの言う事を一生聞かないといけない。
雑用をやらされている。
川に洗濯をしにいく時間に小鳥を見かけると自由でいいなぁと思う日もあった。
私も遠くに行けたら。

忘れてはいけない事なんて沢山あるの。
私は記憶がいいわ。

レノオを待つ日々が続いた。
いつかレノオが迎えに来てくれるわ。

ふと、泣いてる時に誰も話しかけてこなかった。
やっぱり、私は別の国の人なんだ。
泣いている時間が悔しい。
雑用をしないと。

次の日、ディーオが「故郷に帰っていいよ。僕が移動もついてきてあげる。取り合ってもあげる。場所も話し合うよ。」
って言ってきた。
「私は別の国に売られた身。その分の雑用をするわ。一生ここで雑用して生きていくの。」
と言った。
ディーオは「泣いてばかりいるから、使い物にならないよ。」
と言ってきた。
「分かりました。私はもう泣かない。」
そう言って泣いてしまった。
「故郷に好きな人がいるの。」
と打ち明けた。
ディーオは「ここで一生、雑用をする決心があるのは分かったよ。」
そう言って帰って行った。

川の側でボーッとしていた。
ディーオがきて
「誰か待っているんでしょ。」
と言ってきた。
「レノオを待っているわ」
と言った。
「故郷の人とレノオはあなたを捨てたんだよ。それでも待っているの。」
「それでも待っているの!!」
「料理の腕あげてよね」
そう言って帰って行った。

5年間そこで暮らしていたらレノオが本当に来た。
こっそり、レノオとディーオの会話を聞いた。
レノオはディーオに私を任せると言っていた。
その日、私は海に来た。
足が冷たくて泣いた。

ディーオは私と距離を空け始めた。

山の中で私が泣いている時に、急にディーオが走ってきて
「あなたといると胸が苦しい。あなたといる時間がもっと欲しい。」
そう言って泣いていた。


私は待っていたんだ。
ディーオは一緒にお家に帰ろうって言ってくれた。



もう、私に太陽は昇らない。
一生、私に太陽が昇らないの。